甲状腺がんの過剰診断に関する国内外の動向

第3回放射線医学県民健康管理センター国際シンポジウム

このシンポジウムは2021年2月13日から14日に福島市で開催され、福島県民健康調査の担当者と関連する学会の主要なメンバーが報告者として登壇しました。<動画>

神谷研二氏(福島県立医科大学)は、県民健康調査検討委員会の甲状腺検査に関して被曝の影響は考えられないとの評価を紹介し、ただしまだ結論を得たわけではないとして、予断を持たずに解析を続ける必要性を強調しました。

祖父江友孝氏(大阪大学大学院)は過剰診断の概念を紹介し、専門家にとっても理解が難しい問題だが知識の普及に特別な工夫が必要だと述べました。

IARCのメンバーとして原発事故後の甲状腺検モニタリングに関する提言書の作成に関わったGerry Thomas氏(Imperial College London)は、IARCの提言についてスライドで下記のように紹介しました。

提言1 原子力事故後、甲状腺被曝線量が100-500mSvを下回っている場合は集団を対象とした甲状腺スクリーニングは実施しない。
提言2 原発事故後、リスクがより高い個人を対象に、長期的な甲状腺モニタリングプログラムの実施を検討すべきである。

また、講演後のコメントで、福島で行われている甲状腺検査はIARCが定義するところのスクリーニングではなくモニタリングであると認識していると語りました。

志村浩己氏(福島県立医科大学)は、甲状腺検査の現状について発表しました。その中で、甲状腺超音波検査を受けることで甲状腺癌の早期発見が可能になり、それによって再発が少なくなる等のメリットが享受できると説明しました。また、福島で行われている甲状腺検査はIARCの定義ではスクリーニングではなくモニタリングであり、IARCの提言では地域の実情に応じてやることを推奨されているものであると説明しました。

当会のコアメンバーは当シンポジウムで提供された情報のいくつかは事実誤認があると判断していますので下記に列記します。

1) Thomas氏がIARCの提言として提示した文書は、下記の原文と異なっています。

提言 1 専門家グループは原子力事故後に甲状腺集団スクリーニングを実施することは推奨しない。
提言 2 専門家グループは、原子力事故後、よりリスクの高い個人(100-500mS以上の被曝をした者)に対して長期の甲状腺健康モニタリングプログラムの提供を検討するよう提言する。
したがって、福島の対象者の場合、IARCの提言に従えばスクリーニングの対象にもモニタリングの対象にもなりません。

2)IARCの提言は将来起こりうる原子力事故後の甲状腺健康モニタリングについての提言ですので、現在の福島の甲状腺検査への直接の言及ではありません。 ただし、上記のIARCの報告書に示されているスクリーニングとモニタリングの定義によれば、これまで行われてきた甲状腺検査は、被曝線量に無関係に集団で行っていること、検査法の選択の余地が無いこと、医師による事前の相談の機会が与えられていないことにより、スクリーニングに近いやり方になります。

3)甲状腺超音波検査で甲状腺癌を早期発見することでその後の経過が改善するという明確なデータは存在しません。