甲状腺がんの過剰診断に関する国内外の動向

第一回放射線医学県民健康管理センター国際シンポジウム

このシンポジウムは2019年1月14日―15日に福島市で行われました。震災後の課題が幅広く取り扱われましたが、甲状腺検査に関するものとしてして福島医大から2演題、海外から2演題が発表されました。

甲状腺検査部門長である志村浩己氏は、1巡目から3巡目の検査結果概要を解説し、受診率、二次検査対象者数、細胞診で悪性ないし悪性疑いであった症例数を報告しました。また、悪性と診断された患者の多くが既に手術を施行され、ほとんどが乳頭がんであったことを報告しています。過剰診断の影響については、1)5mm未満の結節を精密検査の対象にしていないこと、2)精密検査では、日本乳腺甲状腺超音波医学会の甲状腺結節取り扱い基準に従い対象を絞って細胞診を実施していること、3)リスクが低いとみなされる微小癌については経過観察を勧めるようにしていること、を理由に問題は少ないと報告しました。

WHOのZhanat Carr氏は放射線被ばく後の長期の医学的な経過観察プログラムの正当性の評価法について概説しました。放射線事故後の甲状腺スクリーニングに関してはWHO内の組織であるIARCの勧告を紹介し、甲状腺がんの集団スクリーニングは推奨されないこと、高線量の被ばくがあった時に限り被曝量の推計に基づいた個人単位の任意のモニタリングプログラムが考慮されるべきであることを解説しました。

放射線健康管理学講座の緑川早苗氏は甲状腺がんスクリーニングに関する住民との対話からわかったこととして、検査そのものが様々な場面で不安の原因となっていること、甲状腺がんの多発見が放射線に対する不安を高めていることを報告しました。また甲状腺検査に関して住民のほとんどがデメリットの存在を知らず、デメリットよりメリットが多いと感じていることを紹介し、住民の意思決定のために本来必要である説明と同意・任意性が、現状の甲状腺検査では担保されていないことを報告しました。

韓国の頭頚部外科医であるYong-Sik Lee氏は、韓国において甲状腺超音波検査の過剰診断問題が明らかになった時の状況を説明しました。その中で、過剰診断問題を解決するためには超音波による甲状腺結節の検出は止めるべきであるという考えが出された時、韓国の甲状腺外科グループの強い反対があった、という経過を報告しました。Lee氏は、1)無症状の人に甲状腺癌を見つけようと試みてはいけないこと、2)触診で発見される程度の大きさで治療しても治癒できることがほとんどであること、3)見えない脅威への不安を克服するためには住民の医療者等への本当の信頼がなければならないこと、などを韓国からの教訓として示しました。